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広島高等裁判所岡山支部 平成2年(行コ)1号 判決 1993年5月25日

控訴人

岡山電気軌道株式会社

右代表者代表取締役

松田基

右訴訟代理人弁護士

小野敬直

被控訴人

岡山県地方労働委員会

右代表者会長

上村明廣

右指定代理人

甲元恒也

出射勝巳

佐々木隆雄

安延健一

福島二郎

被控訴人補助参加人

私鉄中国地方労働組合岡山電軌支部

右代表者執行委員長

中谷道弘

右訴訟代理人弁護士

奥津亘

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  当審における訴訟費用は参加により生じたものも含め控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

控訴人は、「1 原判決を取り消す。2 被控訴人が岡委昭和六二年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について平成元年七月二五日付けでした命令を取り消す。3 訴訟費用は、補助参加によって生じたものも含め、すべて被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人及び被控訴人補助参加人は、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決三枚目表一三行目「本件ストカット」を「昭和六二年四月一六日から五月一四日までの間のストライキ」と改める。)。

一  控訴人の主張

1  労使慣行が労使双方を拘束するのは、労使双方を拘束する労働協約及び就業規則に明文の定めのないときか、又は、慣行を明文の規定に優先させる旨労使が具体的に合意した場合に限られるものと解すべきである。

2  本件命令は、本件ストカットを労働組合法七条一号、三号が規定する不当労働行為に該当すると判断するに当たって、示すべき理由(認定した事実及び法律上の根拠)について明確な判断をしていない。同法七条一号については、不当労働行為意思の主体を特定して明示していないし、同法七条三号。については、支配介入の主体を明示していない。

3  昭和六二年の春闘がなかなか妥結に至らなかったのは、被控訴人補助参加人の賃上要求が極めて過大であったからであり、止むを得ないことであった。そして、経営者が労働組合のストライキに対抗してストカットをすることは、労使対等の原則からみて、当然許される行為である。殊に、昭和六二年の春闘では五波七日というストライキが行われ、控訴人の営業に多大の支障を加えたのであるから、本件ストカットが不当労働行為に当たるとするのは、不当に労働組合の争議行為を助長し、労働組合法の適用を誤るものである。

4  被控訴人が控訴人の被控訴人補助参加人に対する姿勢を認定するに当たって援用している(証拠略)は、昭和六三年四月一五日付けのものであるし、しかも、その内容も被控訴人補助参加人を中傷誹謗しているとは言えない。また、使用者にも言論の自由があり、(証拠略)は、控訴人代表者代表取締役松田基の経営理念、社会情勢、企業秩序等についての所信を表明したものであって、狂歌ではない。

5  昭和六二年七月一二日に死亡した大森猛は、同年八月八日の協定時点で在籍しないため、賃上げ等の対象外であり、同月二〇日、控訴人の労務部長猶村普典と被控訴人補助参加人の書記長津田俊明との間で折衝し、猶村が大森の霊前に御供(五万円)と生花を供えることで決着しているから、大森のカット分として一万八二六二円を加えるのは誤りである。

二  被控訴人の主張

控訴人の主張は争う。

なお、控訴人の主張5は、時機に遅れた攻撃防御方法である。

三  被控訴人補助参加人の主張

控訴人の主張は争う。

1  控訴人が支給しているすべての賃金が本件条項の「一切の賃金」に含まれる訳ではない。控訴人が支給している賃金には一〇種類の基準内賃金、八種類の基準外賃金があり、このうちどの賃金が本件条項の「一切の賃金」に当たるのかは個別に検討することを要する。そして、本件条項を解釈するに当たっては、労使慣行もその基準ないし指針となるものである。

また、仮に、労使慣行が本件条項と矛盾するものであるとすれば、労使慣行により労働協約の一部が変更されたものと言うべきである。

2  不当労働行為意思の主体は、控訴人代表者代表取締役松田基であり、同人の下各級各幹部が行動しているのである。

3  大森猛は、夏季臨時給支給の仮払日である昭和六二年七月一〇日には在籍しており、賃上げ前の賃金水準による夏季臨時給の仮の支給を受け、この支給に関して本件ストカットを受けたので、この部分についての回復請求をしている。賃上げ協定による差額支給のあった同年九月一〇日には既に死亡していて在籍していないので、差額分については請求していない。猶村氏が霊前に御供と生花を供えたのは、右差額支給がなかったという事実を受けて、控訴人として大森の霊を慰めたものである。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の各書証目録、原審記録中の証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する(略)。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

1  原判決七枚目表一二行目「『越冬資金』」を削除し、同一二、一三行目「始まり、」の次に「越冬資金、夏季手当等の名目で受け継がれ、」を、同八枚目裏一行目「実施し、」の次に「後者は」を各加え、同九枚目裏五行目「実施され、」の次に「昭和四一年、」を加え、同一〇枚目表九行目「なかった」の次に「し、控訴人側において、それらをストカットするための法的根拠を検討した形跡もない」を加え、同一〇、一一行目「本件条項」を「少なくとも昭和三三年九月三〇日以降本件条項と同旨の条項」と改め、同一一枚目表九行目「幹部会」の前に「代表取締役松田基をはじめとする」を加え、同一一行目「七日」を「同月七日」と改め、同裏一二行目「狂歌を」の次に「、『雑詠』との表題で労務部労務課猶村普典から、」を加える。

2  原判決一二枚目裏一三行目から同一三枚目表八行目までを「控訴人は、労使慣行が労使双方を拘束するのは、労使双方を拘束する労働協約及び就業規則に明文の定めのないときか、又は、慣行を明文の規定に優先させる旨労使が具体的に合意した場合に限られる旨主張するけれども、これは控訴人独自の見解であって、採用することができない。本件条項の解釈、運用に関しては当然幅があり、右認定の労使慣行はその解釈、運用の範囲内のものであって、本件条項に抵触するものではないところ、右労使慣行によれば、控訴人が本件ストカットの対象に含めた夏季手当及び住宅(第二)手当は、本件条項の「一切の賃金」に含まれないものと言わなければならない。」と改める。

3  原判決一三枚目裏三、四行目「結局」から同五行目「なかったこと」までを「控訴人が確立した労使慣行を変更したいのであれば、その理由及び必要性を被控訴人補助参加人に対しスト以前に呈示して、説得に努めるなどの手続を履践すべきであるのにそれを怠って右労使慣行を無視したこと」と、同六、七行目「その後原告の補助参加人に対する意識」を「その後控訴人代表者代表取締役松田基が表明した被控訴人補助参加人及びその労働組合運動に対する見解」と、同一四枚目裏三行目「という。」を「などと述べ、夏季手当、住宅(第二)手当の性格からストカットの対象とならないとの結論を導き出したのではないかとの疑念がある。しかしながら、」と各改め、同四行目「『越冬資金』」を削除し、同一一行目「性格性」を「性格」と、同一三行目「最終的には」を「これを全体としてみれば、」と各改め、同行目「労働慣行によって」の次に「本件条項が規定する」を加え、同一五枚目表一行目「この点」から同三行目「わけでなく、」までを、同一〇行目「本件命令」から同一一行目「しれないが、」までを各削除し、同裏一〇行目「手当」の次に「(乙五六によると昭和六二年七月一〇日の在籍者に支給されることが認められる。)」を加える。

4  控訴人は、当審において、大森猛の本件ストカットによる控除分については、控訴人の労務部長猶村普典と被控訴人補助参加人の書記長津田俊明との話し合いにより決着している旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

被控訴人は、控訴人の右主張は時機に遅れた攻撃防御方法であると主張するが、それが訴訟の完結を遅延せしめるものとは認められないから、被控訴人の右主張を採用することはできない。

5  当審における証拠調べの結果を総合しても右認定時判断を覆すに至らない。控訴人は、当審において縷々主張するが、いずれも控訴人独自の見解に基づくもので、採用することができない。

二  以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山健三 裁判官 渡邊雅文 裁判官 池田光宏)

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